2015年9月号

特集/「地元」再生の担い手

 近年,人口減少と高齢化が進行した地方において,地域の空き家を再生し移住者を誘致する取り組みが様々なかたちで試みられている。特に,地域の自然環境や空き家となってしまった家屋の魅力を「物語」として語ることに長けている取り組みは,インターネット等での拡散力もあることから大きな注目を集め,実際の移住に至る場合も多い。
 都会からの移住者たちは,古い家屋をリノベーションによって魅力的な住空間に再生していく。さらに,空き家を活用したカフェやコワーキングスペースなど,和みや仕事の場もその地域になかに生み出して移住者間で多様な交流をおこなっているプロジェクトもあり,魅力的である。
 では,そのような移住の取り組みを,「地元」の人々はどのような想いで見つめているのであろうか。各地で取材していると,廃校になりかけた小学校に子供が増えて喜ぶ長老,移住者と同世代であるからこそ反発する消防団員,環境保護のあり方を巡って対立する新しいNPOと伝統的な地域組織など,その想いはそれぞれ個別であり,根が深い。
 また,空き家再生の開始から時間が経過したプロジェクトでは,当初移住した人たちが子育てや転職,親の介護等で,あるいは「飽きたから」「より魅力的な地域を見つけたから」との理由でその地域を次々と離れ,その跡には好き勝手な改造によりもはや民家としての魅力を失った空き家群だけが残されている場合もある。
 大切なのは,単なる「空き家」の再生ではなく,地域空間や地域社会の持続性についての視点であろう。そのために,元から居住している人たちと移住してくる人たちからなる,新しい「地元」の再生・継承のプロセスのあり方が,問われなければならない。
 今回の特集では,この「地元」再生の活動における,その担い手について考えてみたい。実際に各地の取り組みを取材していても,制度や補助金等の仕組みの整備よりも,まずは創意工夫に満ちた魅力的な活動を行う個性的な担い手の存在が重要であることをいつも教えられる。その担い手には,一方で地元に古くから住んでいるローカルな人たちとの関係を育みつつ,他方で地域の魅力を物語化したコンテンツを発信し移住に関心をもつ人たちとのネットワークを構築しながら活動を行う能力が求められる。
 では,その担い手は,どのような人たちなのであろうか。出身高校の同級生などのローカルなつながりを大事にしながら活動している担い手がいる一方で,全くよそ者であるからこそ地元の人が気づかない地域の魅力を発見できる担い手もいる。あるいは,移住者の第2世代として,両者の属性を兼ね備えた担い手もいる。
 行政等の立場で「地元」の再生に取り組もうとする際には,この担い手となりうる個性的な人材を見つけ出し,あるいは育成して,その活動をバックアップしていく態度が重要となる。今回の特集では,各地の地元再生の担い手に,取組みを論じてもらっている。読者それぞれがかかわっている地域において,その担い手を発掘し支援する際のヒントとしていただきたい。

 

企画編集:九州大学大学院人間環境学研究院 都市・建築学部門 助教 柴田 建

 

“新しい地元”の再生と継承
  九州大学大学院人間環境学研究院 都市・建築学部門 助教 柴田 建

「若者が地域を変える」という成功譚の行方
 新潟市上古町・越前浜・沼垂を事例に 法政大学デザイン工学部建築学科 教授 岩佐 明彦

職住の場の獲得から地元の再生へ
  ISANA 中川 雅之/中川 なぎさ

地元をつなぐ用夢員
  まちづくり学校 双海人 用夢員 本多 正彦

空き家のリノベーションによる新しいまちのカタチと関わりかた
  鰍lYROOM 代表 倉石 智典

移住者コミュニティと地元の関係構築(福岡県福津市津屋崎)
  津屋崎ブランチ 代表 山口 覚

横浜寿町から三津浜へ
  コトラボ合同会社(Kotolab.LLC)代表 岡部 友彦

移住第2世代としての担い手 地元の眼と外からの眼
  atlier HUGE/アトリエ・ヒュージ 水谷 元

 

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