2019年5月号

住まいと仕事

 元来,農漁村にしろ,城下町の商家・職人長屋にしろ,「住まい」と「仕事」は,密接に結びつく形で暮らしが営まれていた。
 しかし1910年に,実業家小林一三の手によって,我が国で最初の郊外分譲住宅地である「池田室町」が開発され,街なかの喧騒や煤煙から離れた自然豊かな地で家族生活を営む,新しい生活様式が発明された。さらに高度成長期には,一億総中流の夢の受け皿として,全国の郊外エリアに数多くの団地やニュータウンが造成された。勤め人は,離れた都心に毎日通勤し,帰りがけにはガード下の赤ちょうちんで同僚と一杯ひっかけて帰ってくる。住宅地に残された専業主婦は,公園デビューからPTA活動まで,子育ての担い手としての役割を果たしていく。バブル期に至ると,都心から片道2時間の超郊外エリアにも住宅地が現れた。こうして,「住まい」と「仕事」は,20世紀の大半の時間をかけて,分割・隔離されてきたのである。
 この分離が行き過ぎた結果,都心・郊外のいずれもが,片方のみの機能しか持たない地域へと陥ってしまった。「仕事」の場とは,働き手にとっては収入を得る場であるが,地域に暮らす人にとっては,例えばカフェや雑貨屋など,その仕事から生み出された“魅力”に出会える場でもある。両者が完全に分離されると,地域の魅力も失われていくのである。
 近年になって,街なかエリアでのタワーマンション購入など,“都心回帰”の動きが強まっている。特に若い世代は,「住まい」と「仕事」,「暮らし」と「街」の距離を縮めることにより,様々な活気や機会を楽しみながら暮らすことを志向するようになっているのである。ただし,いかに高層化を果たしたとしても,都心部で住宅を持つことのできる所得階層は限られており,以前のような国民共有の夢とはなりえない。
 では,都心から離れた郊外や,少子高齢化が進んだ地方の過疎地域では,いかにして「住まい」と「仕事」の関係を再び結びつけることができるのであろうか。そして,その「住まい」の近くで営まれる「仕事」は,地域にいかなる魅力を生み出すのであろうか。
 最近は,「働き方改革」の掛け声のもと,従来とは異なる様々な新しい働き方が注目されるようになってきている。仕事の場所についても,単なるオフィスビルではなく,コワーキングスペース・シェアオフィス・ファブラボ・スタートアップカフェなど,様々な形態が地域の中に生まれつつある。
 さらに,小商い・ママ作家・野菜直売所・レモネードスタンドなど,子育て中の母親,若い農業ベンチャー,定年退職者,様々な個性を持つ障害者,ときには子どもなど,暮らしの中で新しい仕事にチャレンジする担い手も多様化している。
 本特集では,郊外や地方にける「住まい」と「仕事」との新しい関係,さらにはそこから生まれる地域の「魅力」や「持続可能性」に関する多様なあり方について,各地の現場で取り組む担い手からのレポートを集めている。小林一三による郊外暮らしの発明から100年余り,新しい暮らし方の息吹を読み取ってほしい。

 

企画編集:大分大学理工学部創生工学科建築学コース 准教授 柴田 建


“仕事”と“住まい”から“地域”の継承を考える
 大分大学理工学部創生工学科建築学コース 准教授 柴田 建

まちを元気にする起業女性コミュニティGrandjour(グランジュール)〜近所のカフェで「私サイズ自営業」をサポート〜
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