2024年3月号

新しい住宅セーフティネット
−包括的居住支援にむけて−

 2006年の住生活基本法以来、日本の住宅政策では、住宅を市場で調達することを原則とし、調達できなかった場合に公的賃貸住宅や公的住宅政策などで対応するという基本的方針が続いている。しかし、現実の民間賃貸住宅市場においては、一定以上の家賃でない場合は不動産ビジネスの対象とならないケースがほとんどとなっている。一方で、空き家は年々増加し、いわゆる「その他空き家」のうち人に貸せていない賃貸住宅の数も年々増加しているが、空家特措法の主眼は戸建て住宅である。さらに、依然として本当に住宅に困っている高齢者や障害者などの住宅確保要配慮者への住宅への貸し渋りという現実も依然継続している。
 こうした、住宅需要と供給とのミスマッチに対応する形で、住生活基本法を受けて2007年に「住宅セーフティネット法(住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律)」が制定され、その10年後の2017年に改正が施され、セーフティネット住宅の登録制度、居住支援協議会、居住支援法人といった住宅セーフティネット政策の主要要素が出揃った。これを契機に、全国で居住支援の輪が広がってはきたものの、コロナ禍を経て、新たな形での住宅確保要配慮者が多様に大量に出現するようにもなり、居住支援分野全般に対する関心も社会的に高まってきている。しかしながら、前記したような課題は引き続き継続しているのが事実だ。
 そこで、コロナ禍での経験も踏まえて、新たな形での住宅セーフティネット政策を考えるため、国交省、厚労省、法務省の3省合同の検討会として、「住宅確保要配慮者に対する居住支援機能等のあり方に関する検討会」が2023年7月から12月まで行われ、その取りまとめを踏まえて現在、新たな住宅セーフティネットの構築に向けて、動き出しつつあるところである。一方で、住まいに関わる支援を社会保障の一環として位置付けている内閣官房全世代型社会保障構築本部の「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)」も、2023年12月に決定され、中央政府の居住支援をめぐる議論も転換点を迎えつつある。 本特集では、その動きを担当者からの寄稿を踏まえて概観しながら、今後の新たな居住支援の枠組みとして「包括的」であることの重要性を確認し、さらに、居住支援の活動として今後取り組まねばならない諸課題について、居住支援の実践者たちから提起いただいた。

 

企画編集:東京大学大学院工学系研究科建築学専攻 教授 大月 敏雄

 

居住支援の今後に向けて−包括的居住支援の必要性−
 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻教授 大月 敏雄

住宅確保要配慮者に対する居住支援機能等のあり方に関する検討状況等について
 国土交通省住宅局安心居住推進課 課長 津曲 共和

居住支援の強化に向けた厚生労働省の取組について
 厚生労働省社会・援護局地域福祉課生活困窮者自立支援室長 米田 隆史

法務省としての新たな居住支援に向けた取り組み
 法務省保護局更生保護振興課地域連携・社会復帰支援室長 林 寛之

全世代型社会保障と住まい政策について
 内閣官房全世代型社会保障構築本部事務局参事官 原田 朋弘

大分県における居住支援活動の広がりに向けた取組
 大分県土木建築部建築住宅課企画調査班主幹 辰本 健治 

座間市における居住支援 〜“断らない相談支援”から包括的な居住支援へ
 座間市福祉部参事兼福祉事務所長兼地域福祉課長 林 星一 

住宅新時代へ〜「居住支援協議会九州サミットinおおむた」の取り組み
 大牟田市居住支援協議会(NPO法人大牟田ライフサポートセンター)事務局長 牧嶋 誠吾 

独立行政法人都市再生機構の居住支援サポートの取り組み
 独立行政法人都市再生機構住宅経営部企画課 大竹 健太 

包括的居住支援のこれから
 一般社団法人全国居住支援法人協議会/NPO法人抱樸理事長・代表 奥田 知志 

公営住宅を居住支援に活かす仲介者としての生活協同組合
 生活協同組合コープこうべ 前田 裕保 

空き家活用と居住支援を両立する社会的事業
 Rennovater株式会社 代表取締役社長 松本 知之