2016年7月号

子どもたちの居場所

 近年,地域における子どもの“安心・安全”な環境への関心が,ますます高まっている。その結果,子どもを安全で閉じた領域に囲い込むような活動や居場所づくりが増えてきている。そこで子どもが出会うのは,特定の大人(習い事の講師,活動のボランティア,見守り当番の父母等)ばかりとなっている。
 しかし,地域とは本来,子どもが成長に合わせて様々な他者と出会うことを通してコミュニケーションのスキルを獲得していく,重要な社会化の場であった。子どものためを思った取り組みの結果,逆に子どもにとっての地域環境を貧弱なものにしてしまっているのかもしれない。必要なのは,安心・安全に配慮しながらも,多様な他者との出会いや交流の機会を有する,地域に開かれた居場所なのではなかろうか。
 一方で,そのような開かれた居場所が地域に一箇所あれば良い,というわけではない。地域の中には,個人的・身体的,あるいは社会的な要因から,様々な困難や生きづらさを抱えた子どもたちもいる。それぞれの子どもたちに目線を合わせて寄り添いながら,地域へと迎え入れるような居場所が必要なのである。
 高度成長期の地域開発では,子どもたちは世代別に区分けされ,それぞれの活動圏にあわせて公園や児童館を配置することで,子どものためのまちづくりが実現されていた。しかし,現在のまちづくりに求められているのは,子どもたちそれぞれの能力や問題を受けとめながら多様な居場所をつくりだすこと,さらに,それらを地域に開くことにより,子どもたちと地域の人たちが関わりあいながら育つプロセスを生み出していくことであろう。
 今回の特集では,地域において多様な子どもたちの居場所づくりの実践を行っている担い手からの報告をもとに,今後のまちづくりのあり方について考えてみたい。

 

企画編集:九州大学大学院人間環境学研究院 都市・建築学部門 助教 柴田 建

子どもたちの居場所を地域に開く
  九州大学大学院人間環境学研究院 都市・建築学部門 助教 柴田 建

居場所づくり〜不登校から子どもの貧困まで〜
  NPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワーク事務局長 天野 敬子

子どもの社会化の場としての地域の役割―沖縄・浦添NTでのフィールドワークから―
  九州大学大学院人間環境学研究院 都市・建築学部門 助教 柴田 建

地域につくる子どもの居場所 ‐こども食堂・学習支援の事例から‐
  日本女子大学大学院D1年 金指 有里佳/日本女子大学B4年 坂本 絵美

子ども主体の居場所を地域に開く ‐子どもの遊び場「きんしゃいきゃんぱす」in箱崎商店街‐
  宮崎国際大学教育学部准教授 山下 智也(「きんしゃいきゃんぱす」代表)

子どものたまり場・大人のはなす場「かっちぇて」:ごちゃまぜの中で生まれる関係性
  自然と暮らしの学校「てつなぐ」 片山 健太/片山 薫子

元非行少年たちの居場所と地域への結び直し
  SFD21 代表 小野本 道治/SFD21 青年部 宇薄 拓海
  インタビュー(九州大学) 柴田 建

住宅関係功労者表彰

第68回通常総会報告

住宅だより海外編 ‐国際居住年記念事業 海外の居住環境改善活動報告‐
インドネシアにおけるノンエンジニアド住宅の構造基準
  国土交通省住宅局建築指導課建築国際関係分析官 亀村 幸泰
   〃   住宅生産課建築技術政策分析官 木下 真
 国土交通省近畿地方整備局営繕部長 白川 和司
 国際協力機構国際協力専門員 楢府 龍雄