2016年11月号

高齢者が住環境を支える

 少子高齢化による生産年齢人口の減少に加え、長期的な景気減速により、わが国の自治体の税収は減少し、その財政運営が厳しくなっている。このため、従来の水準で公共サービスを提供することが難しくなり、地域の共助にもその一部を担うことが求められている。
 高齢化の進展は、社会保障費の増大と重ねて悲観的に論じられることが多いが、地域で過ごす時間が多く、地域の様々なことに関心の向く「地域密着人口」が一貫して増加するということでもある(広井良典「人口減少社会という希望」、朝日選書、2013年)。しかも、要介護状態にある人は65〜74歳ではわずか3.0%、75歳以上でも23.3%(平成28年版高齢社会白書)であり、高齢者を地域社会の担い手として捉える「プロダクティブ・エイジング」の考え方が普及しつつある。実際、本特集で報告されるように、高齢者が住環境を支える活動が各地で見られる。そうした活動は、これまで行政が担うべきと考えられてきた役割を代替するだけでなく、行政が担いきれなかった役割を補完する「新しい公共」の活動領域に位置づけられる。こうした状況を踏まえると、目指すべき方向は「高齢者を支える社会」ではなく「高齢者が支える地域社会」であると言えよう。
 本特集では、住環境を支える高齢者の実像、地域活動への参加促進方策、展望について、研究者、現場従事者から報告していただく。まず、男性、女性がそれぞれ地域参加するための要件について、編者(樋野)は43人の男性高齢者へのインタビュー調査を通じて、松本は戦後の女性の地域活動の変遷を踏まえて考察・提案している。続いて澤岡は、上述したプロダクティブ・エイジングの実現のため、「徒歩圏・自転車圏内」に「出番」のある「第三の居場所」が必要であると論じている。後半の4編は、まさにそうした「第三の居場所」を持つ高齢者の活動報告である。順に、美化活動や地域づくりに取り組む男性高齢者(外間・新垣)、買い物弱者等の移動を支える元気な高齢者(福本・加藤)、植栽剪定を通じて空き家の適正管理に寄与するサラリーマンOB(光永)の姿が活き活きと報告されている。最後に石井が挙げる二事例のように、住民自身が知恵を絞り、汗を流して、身の丈に合った住環境整備を行うことが時代の要請である。本特集を読むと、その主たる担い手が高齢者であることを確信できるだろう。

 

企画編集:東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻・准教授 樋野 公宏

男性高齢者の地域参加促進方策について 〜10団体54名へのインタビューから〜
 東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻 准教授 樋野 公宏

女性高齢者の地域参加を展望する
  首都大学東京大学院 建築学域 松本 真澄

高齢期の居場所に必要なのは「徒歩圏・自転車圏」と「出番」
 公益財団法人ダイヤ高齢社会研究財団 澤岡 詩野

花と緑に囲まれた芸術の里づくり『大城花咲爺会の取組』
 大城花咲爺会長 外間 裕/事務局長 新垣 正良

高齢者が高齢者の足を支える取り組みの意義 〜徳島市・応神ふれあいバスの取り組みを例に〜
 公益財団法人豊田都市交通研究所 主任研究員 福本 雅之
  /名古屋大学大学院環境学研究科 准教授 加藤 博和

パワフルな高齢者が支える空家等の適正な管理
  〜大分市(公社)大分市シルバー人材センターとの「空家等の適正な管理の推進に関する協定」から〜
  大分市土木建築部住宅課 主査 光永 靖彦

地域住民が主体となった「ちょうどいい」地域づくり
  〜広島県福山市沼隈地区と長野県栄村の取組〜
  国立研究開発法人建築研究所 住宅・都市研究グループ 主任研究員 石井 儀光

 

トピックス

平成28年度国際居住年記念事業の活動
  一般社団法人日本住宅協会

 

住宅だより海外編

‐国際居住年記念事業 海外の居住環境改善活動報告‐
 「緑のサヘル」2015年度の活動記 一般社団法人日本住宅協会